24 人のビリー・ミリガン

「事実に基づいた、ある多重人格者の物語。」
名作 SF 小説 "アルジャーノンに花束を" の著者、デニエル・キイス氏の作品だから、てっきりフィクションだと思っていたが、連続レイプ犯として逮捕された青年にインタビューを重ねて、小説風にまとめたものだった。

この物語、とにかく登場人物が多いのだ。ビリー・ミリガンがいるだけで、24 人の計算になるばかりでなく、関係者も多数に登る。正直、誰が誰だったかよく分からないんだが、まあ、物語の本筋ではないので気にしないことにする。

今でも多重人格とゆーものがホントなのかどうかよく分からないものだと思われるが、この事件が 30 年前に起こったものであることを考えると、けして恵まれた治療環境ではなかったはずで、小説中にもなかなか腹立たしいエピソードがいくつも登場する。凶悪犯と考えるのも分からなくはないが、"毒になる親 - Tommy Heartbeat 2nd" を読んで、幼少期の肉体的、性的虐待が、その後の精神構造に大きく影響を与えることが分かると、その結果として起こった犯罪の罪をどう考えるかとゆーのは、なかなか難しい問題である。今では、罪を犯した人を罰するよりも、救済や教育を重点的に考えるべきだと思っているが、かつては、罪は罪なのだから、責任能力うんぬんで判決が変わるのが納得できなかったのが本当のところだしね。

この本を読んでいて思い出したのが、精神病院を舞台にした "カッコウの巣の上で" とゆー映画。患者と医者、精神を病んでいるのはいったいどっちなんだろう? 日常生活を営んでいる自分が病んでいないとは断言できないんぢゃないだろうか? …そんな感覚を芽生えさせ、心の暗部をするどくえぐるアカデミー賞受賞作品だ。ビリー・ミリガンは多重人格として病んでいたのは間違いないだろうが、物語に登場する治療に当たるべきスタッフの一部の人の方が狂気に走っているように感じる部分があり、映画のことを思い出したって訳だ。

まあ、それはともかく、ハッピーエンドが待っている訳ぢゃぁないけれど、世の中の一つの側面として、読んでおきたい貴重な物語だった。

24人のビリー・ミリガン〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

24人のビリー・ミリガン〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

24人のビリー・ミリガン〈下〉 (ダニエル・キイス文庫)

24人のビリー・ミリガン〈下〉 (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

カッコーの巣の上で [DVD]

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