象の背中
「余命半年を宣告された、あり触れた一人の男の物語。」
物語は一人の男が余命半年を宣告されたところからはじまり、人生の幕を下ろすところで終わる。スティーブ・ジョブズや、ランス・アームストロングのように、奇跡が起きたりはしない。
★★★★☆ "ただマイヨ・ジョーヌのためでなく" - Tommy Heartbeat 2nd
主人公、藤山幸弘は 48 歳のサラリーマン。ごく普通の男だ。そーゆーありふれた設定が、この物語が自分の身にも起こることを十分に想像させ、激しく感情移入してしまう。何気ない会話の一言、一言がみょーにリアルで、そこに含まれる心情まで理解できるような気になってしまうのだ。物語でかわされる大人のやり取りの一つ一つに、目頭を熱くしてしまう。
はたして、余命半年を宣告された時、自分はいったいどうするだろうか? ついつい、そんなことを考えながら読んでしまう。藤山幸弘は、延命治療を拒否し、残りの人生で何人かの人に会いに行ったりするのだけれど、もしかしたら、自分もこーゆー行動を取るのかもしれない。思い出の人に会いに行ったり、若い時にケンカした親友に会いにいったり…。ま、あまりそーゆーことは考えたくはないが、突然の人生の終焉の可能性について思いを馳せることは大切なことかもしれない。たった一度だけの人生なのだから。
脇役として一人のエリート青年が登場する。若くしてガンで死ぬことになるのだが、なぜか彼の言葉が胸に残っている。
「何のために小学校の頃から塾に通って、テレビも観ずに、野球もせずに、女の子に胸をときめかせることもなく、勉強し続けたのか? 『持って、一年』と言われた時、涙がこぼれるより先に、大声で笑いましたよ」
「だから勉強なんて無駄だ」などと子どもじみた結論が言いたくて、引用した訳ぢゃぁない。昔、友だちに言われた言葉を、ふっと思い出したのだ。
後悔したくないなんて、アホちゃう?
どーせ後悔するんやから、先に悩んでたらもったいないやん。
後でいっぱい後悔すればええねん。
この友だちは、きっと、"その時" になっても笑いとばすだろうな。「もう残り少ないんやで? 後悔なんてしてる時間がもったいないやん。」と。
amazon の書評を読むと、そんなに高い評価を受けていないのだが、オレは、主人公、藤山幸弘は最後まで藤山幸弘だったのが、ものすごく味わい深くて良かった。
- 作者: 秋元康
- 出版社/メーカー: 産経新聞出版
- 発売日: 2007/09
- メディア: 文庫
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