死因不明社会

海堂尊氏が "チーム・バチスタの栄光" を書いたホントの理由が、これ。」
"このミステリーがすごい" で大賞を取った異色のミステリー "チーム・バチスタの栄光"。もちろん、ミステリー小説として十分おもしろい。

が、おもしろいだけでなく、そこには日本の医療問題と、解決の提言がちょっとだけ含まれていた。その部分だけを取り出したのが、本書 "死因不明社会" だ。

海堂尊氏の提言は単純明快。Ai の導入と、死亡時医学検索の再建である。たったこれだけ。Ai は Autopsy imaging (オートプシー・イメージング) の略で、死んぢゃったらとりあえず CT や MRI で画像を撮りましょうってこと。死亡時医学検索は、死体発見後の処理フローに Ai を組み込んで、死因特定、データ蓄積、医療教育まで再構築し、まっとうな医療行為をしましょうってこと。

"まっとうな" と書いたのは、日本の解剖率は 2% に過ぎず、98% は検案 (要するに見た目と経験と感) で死因が決められているから。外傷が無く、事件性も無かったら、「とりあえず心筋梗塞にしとけ〜」みたいな感じ。ちと誇張し過ぎだが、理路整然とした説明は、本書を当たっていただくとして、検案だけで死因を決める (突き止めるぢゃないのだ) なんて、名前だけを書いたら心臓マヒで死んぢゃうデスノートぢゃあるまいし…。

「死んじまったものはしょーがないぢゃん。原因究明しても生き返る訳ぢゃないし…」と思うなかれ。愛する人や家族を亡くして、その本当の理由が分からなくていいはずがない。例えば、先日、どっかの相撲部屋で死んぢゃったかわいそうな人がいたが、あれにしたって、家族が異議を唱えて解剖を要請したから事件が明るみに出たけれど、当初の警察の判断では事件性はなしってことになっていたそうな。あわや事件が闇に葬られるところだった訳だが、これが身内だったらどーだろう? もうちょっと身近なところでは医療ミスの隠蔽なんかも考えられるし、そーいった事件性のモノぢゃなくても、高額な医療費を支払ったものの、「ベストを尽くしましたが、残念ながら…」といった結果になり、はてさて、どのぐらいの医療効果があったのかは皆目分からない、なんてゆーのは、多くの人が遭遇するはず。てっきりガンだと思っていたら、ガンの進行はあまり進んでなくて、本当の死因は心筋梗塞だったりするかもしれない。死因が変わると、保険が降りるとか降りないとか、そんなところにも影響するだろうし、生きている親族には切実な問題となるかもしれない訳だ。

現在の日本医療がどーなっていて、どんな問題があって、その解決策がどーゆーもので、どのぐらい効果があるのか、詳しくは本書を読んでもらいたいのだが、もし、なんか難しそうだと感じているとしたら、その点は大丈夫なので、ご安心を。なんとこの本、とっても真面目な内容なのに、厚生労働省技官、白鳥圭輔が登場するのだ。白鳥圭輔とは、"チーム・バチスタの栄光" に登場するロジカル・モンスターキャラだ。架空の人物が毒舌で現状を提示し、医療改革を提言するのだから、試みとしても面白いし、固い内容のはずなのに読んでいて飽きない。

実はこの本、少しくどい印象がある。なぜなら、書いてあることは、Ai の導入と、死亡時医学検索の再建だけで、半分も読まないうちに、著者の主張に大いに賛成するはずだからだ。なのに、様々な角度から考察を重ねて、丁寧に解説しているのだ。なぜなら、いくら良いことでも、世の中はそー簡単には変わらないから。既得権益を受けてる人たちが意思決定層にどっかりと腰を下ろしている状況では、一縷の隙も作らないだけの論理の構築が必要だろうし、そして、多くの一般の人々の理解と賛同を得るためには、分かりやすいことも欠かせない要件となる。結果として、ややくどいものとなるのは避けられない。

んが、著者はまずは、ミステリー小説 "チーム・バチスタの栄光" で知名度を上げ、そして本書 "死因不明社会" で、個性際立つ架空の人物を使って、ユーモアを交えつつ、理路整然と説明するとゆースタイルで、しっかりと読み応えのあるモノに仕上げてある。どちらの本もとても緻密に書かれていて、「いい仕事してますねぇ〜」って感じだったのは、著者がそれだけ日本の医療改革に本気だとゆーことなのだろう。

死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)

死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)

本当に素晴らしいと思う。本書も本書の提言も。でも、素晴らしいだけではダメなのだ。医療崩壊が叫ばれる中、再構築が現実とならなければ。少しでも多くの人に Ai が知られるよう、願ってやまない。

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)