天国からのラブレター

「他人のラブレターを読むのはとっても恥ずかしいもんだな。」
とあるカップルが、出会いから書き続けたお互いのラブレターを一冊の本にまとめた本書。もっとも、大半は彼女が書いたもので、彼が書いたものは 1 割程度か。

お互いにとって、とっても愛しい存在で、他人には絶対に分からない甘くて切なくて幸せな日々を過ごしていたことは、創作ではない実際のラブレターだからこそ、痛いほどに伝わってくる。読んでいて、ドキドキしてしまう。他人のラブレラーを読んでいるのだから、ある種、覗き見的な感覚も手伝っているのかもしれない。

しかし、残念ながら、この二人のラブレターに続編はない。私よりも若い人たちだったが、この本が二人のラブレターのすべてなのだ。なぜなら、彼女はもうこの世にいないから…。

だから、"天国からのラブレター" と題された本書。8 年ほど前に起こった悲劇的な事件である光市母子殺害事件。その被害者となってしまった彼女が遺したものを、彼女が生きた証として、彼が出版したのが、この本と云う訳だ。

結末も彼の情熱的な想いもニュースで知れわたっている、完全なノンフィクション。だから、手紙で交わされる言葉が幸せであればあるほど、悲しい気持ちが風船のように膨らんでゆくのだ。そして、それ以上に、まだ人生について何もしらない子どもにまで手をかけた犯人への憎悪も…。

この本を読まなければ、彼らは私にとって、架空の人物のように事件の被害者とその遺族と云う薄い存在だった。今は、実在する人物として、今にも声が聞こえてきそうなほどに、心の中に生きている。きっと、忘れない。

天国からのラブレター (新潮文庫)

天国からのラブレター (新潮文庫)

私は死刑廃止論者ではない。死刑制度には十分に抑止効果があると考えている。が、しかし、死刑は仇討ちでもない。未来の同種の犯罪への抑止効果があるかと言えば、実際にこのような事件が起こった以上、なにを目的として死刑にするのか? そんな疑問を感じるのだ。

"やりたい" 気持ちは、本能として誰もが持っているものだ。その欲求が抑圧されている今の社会では、ある程度、このような歪みが発生するのは、やむを得ない。この本能的欲求についての選択肢は、聖人のように清く正しく生きるか、うまく抜け穴を見つけるか、法を犯して欲求を解放するかの三つ。どれも万人向けではない。歪みの発生率を下げる為には、うまく欲求を満たす現実的な道が必要なのだ。

犯人の結末がどうなるか分からない。が、願わくば、安易に死刑にするでなく、心の底から悔い改めるような、なんらかの顛末であって欲しい。そして、二度と悲劇が起こらないことを、願ってやまない。