ハンニバル・ライジング

「画竜点睛を欠く。」

我が心の師、ハンニバル・レクター博士の原点を描いた本作。何が彼を狂気に駆り立てたのか? そのエピソードは、十分に納得のできる原作である。こんな過去を背負っていれば、構築される精神構造が猟奇的なものであってもなんら不思議は無いだろう。

繊細な嗅覚や美的センス、解剖学的知識を身につけた経緯も明らかにされる。サイドストーリーとしての歪んだラブストーリーにも好印象を持った。この女優さんがけっこう好きだったりする。どこかで観た女優さんだと思ったら、マイアミ・バイスSAYURI にも出演しているコン・リーだった。中国人だが、日本女性を演じているのだ。どことなく山口百恵を思わせる、長身で細身の美人。彼女が渋い日本の未亡人役を違和感なくこなしている。東洋の神秘を体現したような、とっても綺麗な女優さんだ。

ハンニバル・レクター役のギャスパー・ウリエルも細身の美男子。顔に返り血を浴びながら浮かべる微笑は、アンソニー・ホプキンスに負けず劣らず、ハンニバル・レクターらしい雰囲気を醸し出している。まあ、彼が齢を重ねて、アンソニー・ホプキンスのようになるとは思えないが、そのあたりはどうでもいいことだろう。

…が、しかし…。なんだろう…このモノ足らなさは。映像や音楽も高いレベルでまとまっている。"ハンニバル" ほどではなかったが、"レッド・ドラゴン" ぐらいの仕上がりのように思える。ストーリーもライジングに相応しいのだが、しかし…。部分点は高得点でも、総合点では満足ゆくものではなかった。

なんだか、この先、レッド・ドラゴンにつながると思えないのだ。単体としてのできは十分だが、シリーズ物としては、不十分といったところだろうか。

レッド・ドラゴンとの間をつなぐ名作の登場があれば、遡ってライジングも名作になるかもしれない。続編に期待したい。