慈悲

「まあ、気まぐれだったんだけどね。」

先日、京都へ行った時の事だった。茶屋*1へ入ろうと思って、ショーケースを覗いていた時に、おそらく 50 歳前後と思われる見ず知らずの女性に声を掛けられた。「親が倒れたので帰りたいのだが、財布を落としてしまった。500 円もらえないだろうか?」たぶん、こんな事を言われたのだったと思う。裕福そうには見えなかったが、ホームレスってこともなさそうだったが…。

「それはさぞかしお困りでしょう。500 円でよろしいんですか? お見舞いなら花代も必要でしょう。いっそ財布ごと持ってお行きなさい。親御さんが何事もないといいですね。」などと云うことがあるはずもなく、私はおもむろに 500 円を財布から取り出し、ただ黙って彼女に渡した。

彼女の話を真に受けた訳ではない。以前にホームレース風の男性にタバコをせびられた時も素直にタバコを渡したんだけれども、一方で、募金活動には一切協力しない自分もいる。あまりある経済力を持っている訳でもなく、人並み以上の親切心を持っている訳でもない。

誇りを捨てて人に媚びて生きるなんて私にはできない。

ただ、そう思った。500 円が何に使われるのかなんて興味もなかった。もしかしたら、違う生き方を見せてくれたことに、私は 500 円の価値を見出したのかもしれない。

その後、茶屋に入って山積みされた御手洗団子を食べながら、お茶を飲んだ。やっぱり、京都の和菓子はうまいなぁ…と、しばしの幸せを噛みしめていた。

頼んだ和菓子は 650 円だった。

*1:京都の和菓子屋さん。喫茶店とは言わんでしょ?