初動

「人、物、事、金」
以前、プレゼンテーション資料を作った時に、アドバイスを頂いた言葉が「人、物、事、金」と「可否、要否、採否」だった。まだ、自分の中にしっかりと取り込めた訳ではないけれど、少しずつ意識するようになってきている。

さて、その「人、物、事、金」だが、今、困っていることをこれで説明できることに気付いた。

とあるシステムを作る仕事をしているのだけれど、開発チームに要求分析とかモデリングと云った概念なく、ビジネスルールが即アプリケーションの仕様になってしまう。後でしんどい思いをすることになるのは覚悟の上で、それを受け入れることにしたので、気持ち的には楽になったのだけれど、開発を進めてゆくのはやっぱりしんどい…。

何が問題なのか少しずつ整理できてきたのだけれど、話の中心が "事" と "金" に集中してしまうのが問題なのだ。"事" ってのは、システムを使う人のやりたいことで、彼らは見たい画面や、欲しい帳票、自分が入力するデータに興味の対象がある。"金" ってのは、開発チームのメンバーが会計システムの経験値が高いことと、システムの最大の課題が管理会計にあることからである。

ところが、"事" や "金" の前提になる "人" (組織構造、役割、権限) や "物" (製品構成、部品構造、施設、設備) が分からない。会話が成立する程度には分かるのだけれど、システムを作るほどの厳密さで分からない。周りが全員それで開発を進めてる以上、チームとしてそういうところを厳密にしないのが暗黙のルールになってしまった。"人"、"物" が曖昧だと、なぜ問題なのか? どうしてもそこが共有できない。マスターさえメンテナンスすれば、"人" や "物" に関わらず、アプリケーションは使えるはずだと考えているらしいのだが、それが一般的な認識なのか? たぶん、ハッピーパスでしか正しく動かないと思うぞ。

チームの暗黙のルールに逆らわないことにし、なんちゃら定義書なるものを一所懸命に書いているのだが、自分の書いていることが分からない。他の人から「なぜ、そのように定義したのか?」と訊かれたら説明できない。「*たぶん*、カクカクシカジカなんで、こうなる*はず*なんですが…。」と、"たぶん"、"はず"、"思う"、"きっと" などなど、自分の作った成果物なのに、ぜんぜん私らしくないキーワードが並ぶことは想像に難くない。(TT)

システム内部で使用する "物" のコードについての話をしていても、すぐに "物" の話から "金" の話に変わってしまう。"物" に対してなんらかの会計上の分類を行いたい訳だが、どうやら発注元も混乱しているらしくて (そりゃぁ、人、物を曖昧にしたまま、便利か不便かを判断基準にして、コードの追加、廃止を繰り返しているから…。)、整理したいようなのだが、なんせ "人"、"物" が厳密に分からないから、手助けすることもできないし、あちらの話を一から十まで聞く以外に他の道を見付けられない。

"人" と "物" は発注側にとっては常識的なことだから、こちらが訊かない限り、わざわざ面倒な説明をしたりはしない。もっとも、発注側にもモデリングなる概念はなく、改めて "人"、"物" を訊かれても困るだろうとは思う。特に会話の相手が、実際の事務作業をしておられる担当者で、ただ慣習に従って自分の職務をまっとうしているだけだから、俯瞰した視点は期待できないし…。自由に活動できれば、そのあたりはカバーできるのだけれど、旧体質の開発チームなんで、身動きとれないし…。困った、困った。

最近、開発チームとは関係のないところで、要求分析フェーズについての社会的な問題や技術的な問題について話をしている。それがあるからムキになって自分のやり方を押し通すことなく、一歩引いたところから見ているのだけれど…。過去の経験を省みて、他の人が作成した問題を抱えた設計書が、どういう経緯で作成されるかがずいぶんと分かった。なるほど、客先業務を理解するのではなく、アプリケーションの仕様を取りまとめようとしていたのね、と。

やっぱり、最初の要求分析やモデリングが肝なんだよなぁ…。