お金は銀行に預けるな

「銀行の暗部、恥部を期待したら、金融リテラシーの教科書だった。」
過激なタイトルで煽るのは、売るためにはしょーがないんだろうなぁ…。私が本書を手にしたのも、このタイトルだったからで、「金融リテラシーの教科書」だったら、読んだかどうか分からんもんなぁ…。

で、内容の方は、銀行に預けるより、金融リテラシーを磨いて、効率よく資産運用するための指南書で、無知な私には大変役立つモノだった。怪しい儲け話の本ばかりが立ち並ぶ中で、もっとも教科書的で堅実な話を一冊にまとめてある。お勧めの良書。

が、しかし…。庶民感覚としては、素直に受入れられない話もいくつかある。

まずは、信託の金利。定期預金よりも割がいいとは云え、せいぜい数パーセントの話だ。年利 5% として、100 万円が一年で 5 万円。たかが、5 万円のために、いろいろ難しいことを学習して、ややこしい話を聞かされ、確率が低いとは云えリスクを負うなんて、割に合わない。そんな心労を伴うぐらいなら、宝くじで一発を狙った方が…ってのが、一般的な感覚ではないかと思われる。

多少の経験を経た私は少し違う感覚なのだが、それでも信託の薦めを受入れるためには、本書を最後まで読む必要があった。保険や年金の話、そして老後の収入の試算まで読んで、初めて信託を受入れる気になったのだ。一通りの金融商品が見えて、かつ、目先のことから離れた時間軸の感覚と、試算から複利の効力を理解して…だ。

もう一つ、住宅ローンの話も。金融資産として考えたとき、住宅ローンの効率の悪さは、経験値として実感している。が、しかし…。生活する上で住むところは必須なのだ。賃貸で家賃を払いつつ、他の金融資産にお金を回す余裕がどれほどあろうか? かつ、家賃は消えてゆくだけのものだが、購入すれば家賃相当がそのまま資産形成になるではないか! 現在の不動産が資産形成上、あまり良いモノではないなんてのは、既に十分に資産があって、マネーゲームとして財テクしている金持ちの論理だ! …ってのが、庶民感覚だろう。

…が、感性に流されてはいけない。膨大な金利と、半値まで値下がりしてしまったマンションを持ち、身動きが取れない身としては、何年も前から本書の主張が正しいことを実感している。3,000 万円が 1,500 万円まで下がったとして、この差額と金利分をずーっと払い続けていることになるが、家賃として消えてゆくのとなんら変わらない訳だ。今更になって、若いうちに経済を学習しておくべきだったと反省している私だが、このような失敗を次世代に引継ぐことがないよう、このあたりの試算もしっかりと載せておいて欲しかった。著者はブログを書いておられるようなので、そのあたりが補足されるといいのだが…。

お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)

お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)

まあ、私は本書を素直に受入れられるほど頭が良くないし、ここまで株を運用していてそんなに悪くはない成績だし、死ぬために生きるような資産形成にも魅力を感じないので、まだしばらくは、身銭を切っていろいろ体感してみるつもりだ。そんな私のことはともかくとして、十分なリスクヘッジとベーシックな金融リテラシーを身に付けるのに、本書が最適なのは間違いない。怪しい儲け本よりも遥かに有意義で、しかもとっても安い。金融関係で最初に読むなら、まずはここからだろう。