現代の貧困

現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)

現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)

事なかれ主義社会と言うか、クサいものには蓋社会と言うべきか…。そこにあるのに見ようとしないものはたくさんある。余計なトラブルに巻き込まれたくない思いは誰にでもあるもので、忙しい現代において、事なかれ主義は避けられないものなのかもしれないが、それでも著者はあえて貧困問題に踏み込み、"貧困の再発見"、"貧困の定義" に注力している。

日々の生活に追われて、視界の外のあった世界を本書で知り、いろいろ考えさせるものがあった。本書は、けして同情を煽るでなく、救済を訴えかけるでもなく、ただ、少ないデータの中から絞り出せるだけ絞り出して、"現代の貧困" を露にすることだけに注力しているのだが、それだけにかえってリアルに実感できてしまうのだ。

貧困の問題は、貧困そのものにだけあるのではなく、現代社会から拒絶されてしまうこと (たぶん、ホームレスの人の多くは選挙に行ってないだろう)、また、そこから抜け出せない仕組みになっている社会構造であることも問題なのだ。こんなことは、当事者でなければなかなか気付けないことだが、そのあたりをしっかりと表に出したことは、大きな功績だろう。

ネットで軽く調べてみると、国の借金は 827 兆円だそうな。年間支出予算の中には、生活保護など救済予算も入っているはず。で、本書によると、救済で一人当たりが受け取れる金額は、どうやら死なない程度のわずかなものらしい。根本的な考え方として自己責任があるのは分かるし、救済制度にぶら下がられても困るのも確かだが、「なんで、救済を受けてる人の方が裕福なの?」みたいな、他からの「ひがみ」に対して、十分に答弁できないのも原因の一つらしい。

貧困層から抜け出るために必要なものの一つは、教育を受けたり、技術を身につけたりすることだ。お金を払ってくれる人の役に立つモノを身につけなきゃならないからね。で、当然のことながらそれを身につけるには、たいていの場合はお金がかかる。やっとこさ食えるだけの救済金では、とてもではないが、衣食住以外のことに回すお金なんてないから、貧困層から抜け出ることはおよそ不可能に近いメカニズムになっている訳だ。ロケットが大気圏から飛び出すには膨大なエネルギーが必要なように、初期投資が必要な訳だが、それは出ない。これぢゃぁ救済しているんだか、してないんだか、よく分からん仕掛けで、「ずーっと貧困層のままでいなさい」と宣言しているのと同じことだ。

仮に貧困層の人たちが、学習し、技術を身につけ、新たな職を得たとする。そうすると、それまで救済される立場だったのが、消費者となり、納税者となる。国家予算の救済費用は逓減し、税収が増えることになる。…と云うことは、学習機会の創出は、国としては十分に見返りのある投資となるはずなのだ。もちろん、税金を納められるようであれば、消費者として経済に貢献することになる訳だし、なんだか国策としてけっこう重要課題なんぢゃないかと思えてくる。

国づくりにおいて、教育は常に最重要課題である。教育こそ未来を作る基礎となるものだから。子どもたちへの教育ばかりでなく、学びたいと思うすべの人に、年齢、性別、所得、宗教、親の職業、財産、血液型や星座や郵便番号やら性的嗜好やら…。その他諸々のプロパティに関係なく、教育は誰にでも開かれているものであってほしい。そこには税金を投入するだけの価値があるはずだ。ダイオキシン対策や京都議定書よりもね。:-P

文書力が貧弱で、考えたことをすべて表現できた訳ではないけれども、まあ、本書はいろいろと考えさせてくれた。そんな本書には、深い感謝の気持ちを抱いている。

貧困が過去のものだとか、他人事だとか思っている人は、ぜひ一読されたい。