野洲スタイル

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2006 年 1 月に高校選手権で優勝した野洲高校の監督、山本佳司氏の著書。一般的な監督とは違う言動が気になっていて、著書を手にしてみた訳だが…。

うーん、子どもっぽいかも…。んが、しかし。そこがいいのだ。少年の心を持った大人とでも表現すれば、綺麗な説明になるかもしれないが、少しニュアンスが違う。熱いのだ。いい歳をして、日本中に「愛読書はスラムダンク」だとか、「スクールウォーズを観て教師になった」なんて、なかなか言えるものではないだろう。

普通は歳を重ねる毎に、堅苦しい型にハマった表現を使うようになるものだ。過激な発言をして、わざわざ敵を作るのは疲れるだけだからね。しかしその結果、いつの間にか思考や行動も型にハマってしまう。山本氏はそのあたりが薄い。"高校サッカーを変える" などと言えば、敵を作るに決まっている。趣旨は、「最終到達地点は高校サッカーではない。長い人生のもっと先にある上を目指そう。」と云うこと。世界に通用するサッカーを目指すことで、高校サッカーが魅力的でハイレベルなものに成長を遂げてゆくのだと云う熱い思いを表現した言葉なのだが、否定されたと感じる人がいてもおかしくないだろうし、1 回優勝したぐらいで、何を偉そうに…と思う人もいるだろう。で、普通はそれを回避して型にハマってゆく訳だ。

ポジティブ指向の山本氏は、そこで逃げない。本気で世界に通用するサッカーマンを育てたい熱い気持ちが、楽天的な性格もあって、些事を気にすることなく、目的最優先の行動や言動となっている。

優勝した時の決勝戦。先制したものの、後半に追いつかれてしまい、延長戦に突入した。つかみかけた優勝を取り逃がしたショックを受けているであろう選手達に、彼がかけた言葉はこうだった。

「良かったな。あと 20 分、このメンバーで戦えるぞ。」

この言葉には胸を打たれた。いつかきっと、彼が育てた選手が、世界のビッグクラブで活躍する日が来るだろう。