仕組

沈黙の艦隊は面白い。」

沈黙の艦隊」と云う古い漫画がある。内密に作られた一隻の原子力潜水艦があり、乗組員が初航海で独立宣言して「やまと」と名乗ってしまう。そして同盟を結ぶために日本へ、その後、国連へと向かうのだが、その道中で起こる激しい海戦と、やまとをとりまく政治物語とを描いた名作漫画である。

この中に「やまと保険」と云うものが登場する。保険料の支払いを日本が請け負い、やまとが沈んだ際の保険金の支払いは、契約した他の国が責任を負うと云うものだ。他の国が保険契約をするメリットは、日本が支払う保険料からの配当が受けられることで、沈没後の保険金の支払いが大きなデメリットとなる。ま、実現可能性の考察はおいておくとして…。

まず、"常識" などと云うくだらない枠から外れているところが絶妙に面白い。当然、漫画だから、読者の期待を裏切る面白いアイデアが含まれていないと売れない訳だが、裏切ればなんでもいいと云うものでもない。誰でも思いつきそうなのに、なかなか思いつけない落とし穴的な面白さがいいのだ。

で、本論なのだが、やまと保険と云う仕掛けは、実際にある社会のルールをうまく利用して、関係者 (国) にメリットをもたらしつつ、やまとを守ると云う目的を達成する、"うまい仕組" であることが、もう一つの面白さだ。

物事を強制してやらせるってのが、私はあまり好きではない。私は嫌なことを無理矢理することは望まないのだが、おそらく他の人だって同じだろう。すべての事柄は本人の自由意志に基づいて行われるのが理想だと思っている。一方で、誰かに何かをやらせたいケースも少なくない。趣味でフットサルをやっていたりするのだが、団体競技なので全員がうまくならないと勝てるようにはならない。で、勝つためには他の人に練習をさせたい…みたいなケースだ。だけど、練習が好きな人もいれば嫌いな人もいる。もちろん、誰しも負けて楽しいはずはないのだけれど、勝つためにどれだけの時間を割いて、どれだけのことをするかってのは、人それぞれの生活の中で優先順位はずいぶんと違うものなのだ。

さて、フットサルチームの全権限を持つオーナーになったとしよう。問題はそこで何をするか? だ。持っている権限を何に使うか? だ。平日でも走り込むようにとか、家でも毎日ボールを触るようにと指導する人が多いようだが、たいていはこれではうまくいかない。「馬を水飲み場に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない。」ってやつだ。大切なのは、水を飲みたいと思うように仕向けることなんだ。"人それぞれの生活の中で優先順位が違う" 訳だが、どうやったら優先順位の上位に割り込ませることができるか? を解決する必要があるのだ。

"やまと保険" は、他の国に契約したいと思わせることができ、そして契約後はやまと保護のために積極的に活動してくれることになる。やまとを守れ! 保護しろ! って叫び続けるのとはひと味もふた味も違うのだ。強制ではなく、それぞれの自由意志を喚起する絶妙な仕組となっている。

国でも会社でも学校でもそうだけど、こういう発想がものすごく欠如していると思う。ここの日記の最大の関心ごとであるシステム開発のチームでもそうだ。権力を持ってしまうとどうしても安易に強制力に使おうとしてしまうし、強制はしてなくても恐怖政治型の運営に走ってしまいがちになるようだ。

理想論かもしれないけれど、権力はうまく行動を喚起するための仕組作りのために行使するのがベストなんではないだろうか? これはぜんぜん簡単なことではないのかもしれない。だけど、その仕組を見つけられれば、その効果は絶大である。

…なるべく、自分はそうでありたいと思っているが、ホント、難しいよ、これは。