視力

「電気を付けないと、見え難いんぢゃない? って訊かないでくれ。」

ノートパソコンを使って暗いところで作業をしていると、気を使って電気を付けてくれたり、「そんな暗いところだと目が悪くなるぞ。」とか言ってくれたりする人がいる。せっかくの親切なので、むげに断ることもできないのだが、ディスプレイは発光体なので、まわりの光がなくても奇麗に見える。それどころか、回りが明るい方が困るぐらいだ。試しに晴天の日にノートパソコンを持って公園へ出かけて行けば分かるが、太陽光を上回る輝度を確保できないから、かなり見難いはずで、ものを見る時は明るい方がいいとは言い切れないことが分かる。

本は自ら発光しないから光がいるのだ。映画館は暗くするし、都会よりも山奥の方が夜空の星をくっきりと見ることができる。そこから考えると、発光体を見る時は回りが暗い方がくっきり見えることが分かるはずだ。「映画館で暗いから電気を付けましょうか?」などと言う人はいないし、夜景スポットで星を見ながら愛を語り合おうとしたところで、「こんなところにいたら目が悪くなるわ。早くかえりましょ?」などと言われた日には、百年の恋も冷めるに違いない。常識ってやつは論理的な思考を妨げる効果があるらしい。もし、暗いところでパソコンを使っていて目が悪くなるのなら、映画を見すぎな人や、暇さえあれば望遠鏡を覗いている天文学者はみんな目が悪いことになるし、星を頼りに航海していた昔の船乗りたちが近眼ばかりだったなんて話はたぶんないはずだ。

日頃、パソコンには縁遠い親連中はともかくとして、若い IT 系の人に「そんな暗いところで…」と言われると、けっこうがっかりしてしまう。おもしろいことに、そういう指摘をしてくれる人は、たいてい眼鏡かコンタクトレンズを着用しているのだ。私は裸眼で生活していて、0.8 - 1.0 ぐらいの視力がある。だからこそ、せっかくの裸眼視力を大事にしろと云う気遣いはありがたいと思っているが、私は私で、間違った常識を捨てた方が視力回復の可能性がありそうなのに…と、心の中で思っていたりする。

目が悪くなる原因に詳しい訳ではないけれど、太陽を直視するなどの目に入る光量が多すぎるケース、暗いところで長時間本を読むなどのコントラスト不足による眼精疲労、近距離で本を読むなどの近距離順応、古いテレビや蛍光灯のちらつきによる疲労などが考えられる。今の液晶モニターで目が悪くなるとすれば、長い間、瞬き回数が少なくて、画面ばかりを見ている場合か…。そうならないためには、適度に休憩を取って窓から遠くを見る習慣を作った方がいい。

私の場合は、パソコンに向かっている時間は長いけれども、部屋の中をキョロキョロしていることがかなり多いし、ディスプレイから目線を外して考え事をしている時間も長いし、窓から遠くを見る機会も多い。だから、長年 IT 業界にいてもあんまり視力が落ちないのだと思う。…なーんてことを書いてしまうと、視力を維持するコツは、あんまりまじめに仕事をしないことだと思われるかもしれないな。(笑)