瓜坊

「まあ、出るような場所なのは知っていたんだけどね。」

夜、車で帰宅するのに山道を選んだ。少し遠回りなのだが、ほとんど信号がないのがいいからね。

山道のいくつものカーブを通り抜け、少し広いところに出たと思ったら、大きな犬のようなものが目に入ったので、スピードを緩めて徐行に切り替えた。同乗していた子供に野生の動物を見せてやろうと思ったからだ。ところが、車のライトに驚いたのか、他にもゾロゾロと物陰から動物が出てきて、驚いてしまった。犬のようなものが何だったのかは分からないけれど、後からゾロゾロ出てきたのは猪とその子供たちだった。猪が棲息している場所に住んでいるとはいえ、あまり遇う機会もなかったので、このできごとには少々驚いた。"猪鍋 (ししなべ)" と云う単語が頭に浮かんだのはホンの一瞬の事で、瓜坊 (うりぼう) たちを守るように立つ猪に感動してしまった。子供を捨てたり、虐待したりする親が少なくないことを思えば…ね。

「突進されたらどうしよう?」と心配しながら通り過ぎたのだけれど、何事もなかった。あっちも「鍋にされるんだろうか?」と心配していた事だろう。きっと。