反復

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。」

開発メンバーの誰と話しても、プロジェクトの行く末に不安を感じていると言う。そんなプロジェクトがうまくゆくのだろうか? まあ、期日、スコープ、費用のすべてが問題なく、無事にカットオーバーを迎えられる方が珍しいので、不安に感じるのが普通なのかもしれないが…。

誰もがおかしいと思っていても、軌道修正ができない。そんな事例をこれまでに何度も見てきた。どちらかと言えば、矢面に立って「こんなことぢゃあ、うまくゆかない。建て直すべきだ。」と、かなり早いうちから警笛を鳴らすタイプなのだが、それで軌道修正できたためしはないし、悪役になってしまうことも少なくないので、今回は黙っていることにしていた。黙っていてもやっぱり違う方向へ向かって行くのは止められない。抑止や軌道修正をする人がいないのだから、当たり前か…。

今月で、そのシステム開発から離れることになり、昨日は送別会だった。とは言っても、プロパーの人間の姿はなく、似たような立場の少人数だけで飲んでいたのだけれど…。どうもその人たちの話を聞いていると、それぞれが過去に自分と似たような経験があるらしいことが分かった。みんな会議ではおとなしいので、てっきり、"ああ云う仕事のやり方" が当たり前だと思っている人たちばかりが集まっているのだと思っていたけど、なんだぁ…みんな変だと思ってたんぢゃないかぁ…。だったら、会議で "ふつー" に喋った方が良かったかもしれない。「これまで関わった開発案件の中で、下から 3 番目ぐらいかも…」と云う人もいるぐらいおかしなもんだったんだから。

面談の時からやばい案件になるってことは分かっていた。責任ある立場にある二人が案件の内容をまともに説明できなかったこと、月当たりの契約時間が 200 時間と云う異常な数値だったこと、こちらのスキルに関するまともな質問がなかったことなどから、「彼らには、どうやったらゴールに向かうのか、そのアイデアがない。」と云うことは明らかだった。どんな問題を抱えていて、どういった手順を踏むのか、そのためにどんな技術者が必要なのか? そんなことは関係なしに、泥縄を続けながらも、とにかく時間をかければできあがると勘違いしているタイプだ。

それでも、参入して最初の一月は、真剣にやっていた。要件定義が完了していることになっていたが、とてもではないがめちゃめちゃだったので、仕切り直すなら増員したこのタイミングだと考えていたからだ。「業務とコンピュータシステムを分離できておらず、どこが定義済みで、どこが未定義なのかを判断できない、体裁だけの資料」を見て、すぐに軌道修正しなきゃと思っていた頃の話だ。上の二人に話が通じないのは分かっていたので、「資料が多くて…」「業務が複雑で…」と時間を稼ぎながら、業務に関する問題点を調べ上げて資料を作った。「これだけ業務が不明瞭では、この先へはとても進めません。仕事の進め方やスケジュールを見直す必要がありますよ。」そう言って資料を提出したのだが、かえってきた言葉は「これは訊き過ぎ。さては A 型か?」だった。血液型の話で一蹴されて終わるとは思っていなかったし、まさか目に見える形にしても通じないとは…。予想を上回る展開に、自分の限界を感じつつ 2 ヶ月目に突入してゆくのだが、「意思決定する人間が、問題点を把握できない」ようでは、改善など進むはずがない。なお、6 月末時点でも、状況は変わっていない。ろくに業務を把握していないまま、画面だのテーブルだのに話題が移っている。この先も混乱は増すばかりだろう。

プロジェクトがうまく行かないパターンはいくつかあるのだが、今回のは意思決定する人間の知識と技術の不足があまりにも大きい。スケジューリングも進捗管理もいいかげんそのもの。今までこれでよくやってこれたなぁ…と逆の意味で感心してしまうほどだ。上に厚く下に薄い典型的なタイプで、あの威圧感では裸の王様になってしまうのは避けられない。いずれ体制を大きく建て直すことにならざるを得ないだろうが、それまでは良い方向へ向かいそうにない。

これまでにどれだけの開発案件に関わってきただろうか? そのほとんどが成功とは呼べないもの (期日、費用、スコープが守られない) だった。出向で開発に従事している限り、この先も同じような状況が続くのは間違いない。どこへ行っても似たような過ちを繰り返すのを何度も見てきた経験から、そう結論付けるしかない。しかし、どうも性格的にそれを甘んじて受け入れられそうにない。

IT 業界は、自分の特性を活かして利益を上げられる世界であるし、経営戦略と IT の関係がますます密になるにつれ、おもしろくなる一方である。気に入らないのは業界の旧世代の体質と、技術力を伴わずに収支合せに奔走するいいかげんさであり、IT そのものではない。だから、状況を打破するために、業界への関わり方を変えることにする。

ま、まずは "みとー" だ。